アスクレピオスの誕生
アポロンには寵愛するコロニスというとても美しい娘がいました。
アポロンは自分が会いに行けないときでもコロニスが寂しくないようにと、自分とコロニスをつなぐ神の使いとして純白の一羽の鳥をコロニスに元に通わせていました。
ある時、アポロンがとても忙しくコロニスに会いに行けない日が続いていた頃、この神の使いの鳥がコロニスの様子を見に行くと、そこには若い男と楽しそうに語らっているコロニスの姿がありました。
それを見て、コロニスがアポロン神を裏切っていると思いこんだ鳥は直ぐにアポロンの元まで飛んで帰り、自分が見た事をアポロンに伝えました。
この鳥から伝えられた事にアポロンは激怒し、すぐさま弓を持ってコロニスのいる北の方角に向かい死の矢を放ちます。
放たれた死の矢はコロニスの胸へと突き刺さり、コロニスは全身から血を流し苦しみながら死んでしまいました。
しかし、コロニスはアポロンを裏切ってなどおらず、鳥の先走った告げ口によって命を落とすことになってしまったのです。
この事に、アポロンは自分の行った事を後悔し、コロニスの死を嘆き悲しみました。
そして、自分に告げに来た鳥を憎らしく思い、この純白の鳥を真っ黒に変えてしまいました。
「お前の先走った告げ口のせいで、愛しいコロニスを殺してしまった。お前はその姿で永遠にコロニスの喪に伏すがいい」
この鳥はカラスで、この時からカラスは黒くなったのです。
アポロンはコロニスの亡骸の元に行き、コロニスのお腹の中に宿っている自分の子どもを取り出しました。
この子どもこそ、アスクレピオスです。
医者の中の医者アスクレピオス
アポロンはコロニスのお腹から取りだした子を賢者ケイロンに預け、そしてケイロンとともに我が子であるアスクレピオスに医術を教えていきました。
やがて、アスクレピオスは成長し、素晴らしい医者へと成長します。
アスクレピオスの医術は素晴らしく、やがて死者でさえよみがえらせてしまいました。
しかし、この死者を蘇らせる行為は死者の国の王ハデスを怒らせてしまいます。
「なんと言うことだ!私の国の民を奪う奴がいる」
怒ったハデスは、ゼウスに訴えます。
「死者を蘇らせるなど摂理に反している。許せる事ではない」
ハデスの訴えを聞き入れたゼウスはアスクレピオスを稲妻で焼き殺してしまいます。
最愛の息子を殺されたアポロンは激昂しますが、ゼウスに復讐するわけにはいきません。
そこで、息子を殺した道具である稲妻を作ったものを殺していまいました。
このアポロンの行為に怒ったゼウスはアポロンを1年の間人間に奴隷として仕えるという罰を与えました。
しかし、後にアスクレピオスは、神々の一員となり医療を司る神へとなりました。
アスクレピオスが神々の一員となれたのはアポロンの息子に対する思いを神々が同情したのかもしれません。