月桂樹に姿を変えて逃げた乙女
あるとき、アポロンはエロスが自分の弓矢で遊んでいるところに通りかかりました。
アポロンは弓術の神様でもあったので、自分の弓の腕に自信があり、実際ピュートーンを退治したばかりで少しばかり調子に乗ってしまったこともありエロスにこう言ってしまいました。
「おーい! エロス! 弓矢をちゃんと扱えるのかい?
きちんと扱える者に弓矢を渡した方がよっぽどいいぞ!
まあ、もっともそんな恋の矢というものなんて、私の弓矢と違って大したことないけどな!」
調子に乗ったアポロンはエロスを馬鹿にしてしまったのです。
普段、子供の姿をとりいたずらを仕掛け、周りの神々に叱られている姿ばかりが目立つので忘れてしまいますが、エロスはとても古い神の1人で、大きな力を持つ神様です。
馬鹿にされたエロスはアポロンにお灸を据えることにしました。
そして、”恋をそそる矢”と”恋をはねつける矢”を取り出し、”恋をそそる矢”をアポロンに”恋をはねつける矢”を河の神ペーネイオスの娘ダプネにうちこみました。
恋の矢をうたれたアポロンはダプネに夢中になってしまいます。
しかし、ダプネはもともと恋なんて考えるだけで厭わしく思っていた乙女です。
ダプネの楽しみは森の中で遊んだり、アルテミスのように狩をすることで、結婚なんてしたくないと考えていました。
そんなダプネに”恋をはねつける矢”が打ち込まれてしまったのですから、ダプネの恋や結婚に対する嫌悪感は半端なものじゃありません。
恋や結婚なんて考えただけで嫌悪感で身震いしてしまうくらいです。
ダプネに恋をしたアポロンは、どうしても彼女と結婚したい望みます。
「君はなんて美しいいんだ。どうか私の妻になっておくれ」
誰とも結婚をしたくないダプネはアポロンからの求婚さえ厭わしく思い、風のように逃げ出してしまいます。
「待っておくれ!」
アポロンもダプネの後を追いますが、ダプネは風よりもはやく駆け抜けるので中々追いつくことが出来ません。
アポロンが様々な愛の言葉を投げかけても、逃げるのに一生懸命なダプネは愛の言葉をが聞こえていませんでした。
そして、その逃げる姿さえアポロンをうっとりと魅了するのです。
徐々にアポロンがダプネを追い詰めていきます。
そして、ついにダプネが捕まるかと思われたとき、
「お父様!助けてください! 私の姿を変えて、私が誰とも結婚できないようにしてください!」
ダプネは父のペーネイオスに助けを求めました。
追われる恐怖から、助けを求めた娘を哀れと思ったペーネイオスはダプネを月桂樹の姿に変えてしまいます。
月桂樹になってしまったダプネを見たアポロンは自分の恋が叶わないことを悟ったのです。
未来を見ることができるアポロンでさえ、自分自身の未来は見ることが出来なかったのです。
それとも、恋をすると誰しもが現在の恋以外のことが見えなくなってしまうと言うことでしょうか?
アポロンは自分が追い詰めたことで月桂樹となってしまった事を悲しく思い、月桂樹を自分の樹として頭に飾るしたのです。